お願いだから嘘と言って
2020.08.25
告げられた言葉が持つ本来の意味とは裏腹に、言葉を発した本人には怒りすら見て取れた。どういった思考回路を経れば、この結論に達するのか甚だ不明だが、衛宮士郎自身も驚きと戸惑いを少なからず感じているという証左でもあろう。それでも、口を噤むのではなく、自分の気持ちに嘘はつけぬという、幼さゆえの意固地を無駄に発揮しているのが忌々しかった。
その不器用さに舌打ちすると同時に、赤く染まった顔面に拳を入れてやりたいのだが、なにより、衛宮士郎の言葉を受け入れている自分を、まず初めに殴りつけることにした。
世界の終わりに
2020.08.26
気づけば同じ場所に立っていた。幻の熱風が、記憶のままの熱さを持って俺たちの頬をなぶる。
「変わらないな」
誰に向けるでもなくこぼした言葉に、アーチャーから反応が返ってくる。
「ああ。変わらないさ、いつまでも」
そう言う彼の横顔を見ることもなく、二人、同じ世界を眺めていた。
Marry me?
2020.08.27
「あれ?」
暗がりから急に明るい場所へ引っ張り出されて目を瞬かせた。どうして俺は、こんな所にいるのだっけ? 思い出そうとしても、頭の中に靄がかかっていて、記憶を探る指先は滑っていく。
仕方なく首を巡らせると、いつの間にか数歩ほど離れた場所にアーチャーが立っていた。
何してんだお前? という疑問を口にするより先に、アーチャーの左手がこちらに伸ばされる。傍目には握手を求めているようであるが、普通は右手ではないか。何より、コイツ相手にはどうしたって身構えてしまう。しかし、そんな心のためらいとは裏腹に、自分の手は我知らずアーチャーへと伸ばされていた。
「待て」という警告と「早くしなければ」という焦り。アーチャーの手を取るという、ただそれだけの行為のはずなのに、相反したものが胸のうちに湧き上がる。けれど、こうすることがさも当然とばかりに、俺は差し伸べられたアーチャーの手を、しっかりと握っていた。
どんな言葉よりも
2020.08.28
ひたと見つめられて思わずたじろぐ。目は口ほどに物を言う、とは良く言うけれど、普段の小言が定常化している間柄としては、余計に身構えてしまう。
死ぬ気か馬鹿、と無言の非難を向ける円い鋼。ああ、やっぱり、これはいつもの……いや、いつも以上の苦言が飛んでくるに違いない。
まあ、自業自得だしな――そう心構えをつけた瞬間、右肩に知らない重みを感じた。
「アー……チャー……?」
耳元で小さく漏らされる溜め息。
盛大に怪我を負って、半身だけを辛うじて起こしている俺の肩にアーチャーの額が乗っていた。
「…………ごめん。心配かけた」
自然とこぼれた言葉に、肩の重みがほんの少しだけ軽くなった。
永遠を現実にしてしまう人
2020.08.29
永遠なんてものは、この世に存在しないのだけれど。
その剣の美しさを見る。
その剣が描く軌跡を見る。
その剣を握る拳を見る。
その剣を振るう姿を見る。
――息を飲んだ。
衛宮士郎の願いのカタチが、いつまでも変わらぬ姿で、確かにそこにあった。
こちらからお題をお借りしています。
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